世界 11.下界の人に覆い尽くされる世界

下でなにか轟音がした。
少女は目覚め、また目をつぶった。
 
しかし数秒たつと、またドドドという強い地響きがして、飛び起きた。
 
この世界に何が起きてるのだろう?
 
その地響きは、少女が住んでる世界の幻想のような危うい脆さを吹き飛ばし、現実感のある確かなビートで、少女たちの世界に食い込んできた。
 
少女が部屋を飛び出すと、彼女は「大切なもの」だけを詰め込んだスーツケースを持って、すでに玄関口の踊り場に出ていた。
 
来なさい!
 
彼女は鋭い口調で言った。
 
しかし少女はうろたえ、なにか忘れ物はないか、少女にとって「大切なもの」はなにかないかと、思い起こそうとして立ち往生した。
 
何も考えれなかった。何も記憶からひっぱることができない。
 
もう一度、彼女は「来なさい!」と警告した。
 
それでも動けずにいると、三度目は彼女は少女のそばにきて腕をつかみ、外に出させようと必死になった。
 
 
彼女は扉を開けた。
 
一気にすさまじい轟音が鼓膜を貫いた。
 
下の世界からなだれのように、人がらせん階段を登ってあがってきているのだ。
 
阿鼻叫喚の地獄そのものが二人の目の前にやってきていた。
 
彼女は少女の手を引き、なんとか避難しようと走ろうとしたが、少女の足はがたついて動かなかった。
 
もう無理。
 
「ママー!!」
 
少女は叫んだ。
これで世界が終わるかのように。
 
これを逃したら、もうその言葉を言えないかのように。
 
彼女は、立ちすくもうとする少女の腕を引き続けた。
 
後ろを振り向くと、下界の人々がすぐそこまでやってきていた。
 
少女の足が動いた!!
 
彼女と少女は最後の力を振り絞って、昨日行ったあの上の世界へとつないでいるらせん階段をめがけて走った。
 
後ろから何百もの下界の人々が追いかけてきた。
彼らは少女たちを追いかけてるのではなかった。
彼らの後ろから追ってくる「なにか」から逃げているのだ。
 
二人は彼らに倒され、大勢の人々が追いぬいていった。
その中には女や子供もいて、男や老人もいた。
みんな生き延びようとしていた。
 
「なにか」に殺されないよう必死になっていた。
 
 
二人は下界の人々の隙間を抜け、らせん階段にたどりついた。
 
下界の人々の何人かはらせん階段をのぼっていったが、途中で勢い余って空中に投げ出された。
 
「来なさい!!」
 
彼女は少女の手を引いた。
 
しかし早い段階で、そのつながれた手は離された。
 
少女はらせん階段の下に猛烈に流れてる大川に怯えた。
 
そして引き離された少女の足はぐらついて、らせん階段から大川に向かって落ちてしまった。
 
「キャーッ!!!!」
 
泥水で茶色く汚れた大川の流れは、少女の小さな体をいとも簡単に飲み込みながしていった。
 
彼女はしばらく少女の姿は目で追いかけたが、また上ってくる下界の人々に押されて、らせん階段の上に向かって上がっていった。

f:id:soranimausoul:20160709112626j:image