世界 7.屋敷の内側の世界

彼女との生活が長くなるほど、少女の世界は重くなった。
重いけれど、なぜだか透明だった。
 
なんにも考えなくてもよい気楽さがあるのだ。
すべて彼女がやってくれる。
 
しかしその分自由が失われていく感じがしていた。
少女が好奇心いっぱいに窓から屋敷の外の世界をのぞき、背の高い木々や、そこに群がる小鳥たちを見ていると、背後に彼女がやってきて注意した。
 
なぜいけないの?、とはじめは言っていたが、彼女の氷のように冷えきった顔を見るとなにも言えなくなり、次第にそんなことは言わなくなった。
 
少女は、彼女の支配下にいる、と感じたが、同時にそれが嬉しくも感じた。
 
心を縫いあわせる彼女のそばにいると心が休まったし、そしてとても懐かしい匂いがした。
 
でもその匂いは、彼女の昔の記憶を徐々に消していった。
屋敷に来たころはあった彼女の天上の記憶はもはやかすれて見えなくなっていた。
エレファントの存在はぼんやりと見えるのだが、どのような輪郭をしていたか、どんな目をしていたか、よく思い出すことができなくなっていた。
 
ある日の食卓のとき、少女は思い切ってそのことを彼女に告げてみた。
彼女は微笑んだ。
それを見て少女はそれがよいことなのだと解釈した。
 
その日の晩ベッドで彼女は目をつぶり、エレファントにつぶやいた。
 
おやすみ、さようなら、エレファント。

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