世界 4.重苦しい世界の上に立っている屋敷
雨が少女の顔を叩いていた。
目を開けると、上に菩提樹の葉っぱが見え、そこから滴り落ちる雨のしずくが少女を叩いているのが分かった。
違う。ここはいつもの世界じゃない。
少女は身を起こし、まわりを見渡した。
大雨と強風が少女を迎えていた。
小さな丘の上、菩提樹が少女を守っていたのだ。
「エレファント。。」少女はつぶやいた。
自分の口から出た声は、ほんの少しおとなびて聞こえた。
少女は自分の姿を見て、8歳くらいの女の子になっていることに気付いた。
赤いスカートを着ていたが、雨のしずくに濡れていた。
少女は泣きそうになった。
でも、もう子供じゃないんだ、と自分に言い聞かせ、唇を噛んだ。
今出ようか待とうか迷ったが、結局雨がやむのを待たずに、大雨の中を走り抜けることにした。
なんだろう、この世界は。なんか重い。
そう思って丘を駆け下り、走るスピードが速くなるにつれ、少女はなにかを思い出した。
「知ってる、ここ!」
そう思うと、激しい雨のベールの向こうに、幻想のようにイメージが見えて、自分とそっくりの女の子が丘を駆け下りていくのが見えた。
彼女は同じ赤いスカートを履いて、楽しそうにスキップをしていた。
人生で一番楽しいときのように。
丘を下りると、小さな家畜を入れる小屋の前で、同じ歳くらいの羊飼いの男の子が彼女を迎えた。
二人は出会えたことが本当に嬉しそうに微笑みあい、じゃれついてくる犬の頭を撫でた。
二人は小声でなにか言いあって、また笑った。
そして、一緒に小屋の中に入っていった。
ザーっと強い雨に、少女は意識を戻された。
なんだったんだろう、あの女の子は?
自分の心の鏡の中を映し出しているように感じた。
心臓がどぎまぎした。
空はどんどん暗鬱さを増し、辺りはもう見えなくなる気配になっている。
焦って少女はまた走り出した。
丘の下の男の子の小屋はもうなくて、まばらに立っている木々、その間を少女は駆け抜けた。
雨足は弱まることをしらず、少女は何度かぬかるみに足をすべらしそうになった。
頬に流れるのは涙か雨かもうわからない。
もうすぐだ。もうすぐ?
雨は容赦なく少女を叩き、前髪はびっしょり、滴り落ちる雨のせいで前が見えない。
そして少女はこの屋敷にたどり着いた。
重苦しい世界の上に立っている屋敷。
少女はそのドアをノックした。
もう扉を叩くしか方法は残されていなかった。