世界 3.閉じられた世界に開いた扉
少女は夢をみていた。
夢の中でも一生懸命、左側のいつも閉まっているドアを開こうとしていた。
どうやっても開かないのだが、どうにかならないかと、思いっきりひっぱったり、おしてみたり、隙間をのぞいたり、椅子を持ってきて点検したりしてみた。
それでもびくともしなかった。
ところがいきなりぬーっとドアが開いて、髪の長い女の人が顔を出した。
彼女の顔はなにもなかった。のっぺらぼうだ!
驚いて少女は部屋に戻ろうとしたところ、頭をごつんと打って、それが実際はベッドの端でごつんと打っていて、それで彼女は目を覚ました。
夢だったのか。印象の濃すぎる夢に少女はしばらくぼーっとなった。
続いて少女が住む閉ざされた世界に、驚くべきことが起きてることに気付いた。
窓の外、轟音を立てて、雨が降っているのだ。
少女は飛び起きた。部屋を飛び出し、玄関のドアを開けた。
「なんじゃこれは」
少女は雨の中駆け出した。喜びとも悲しみともいえない奇声をあげて。
雨が降っている、この島に。
少女が上を見ると、世界がひっくり返った。上と下が逆転して、下から雨が降ってくるのだ。
少女が下を見ると、世界は戻った。
少女は怖くなって「エレファントー!!」と泣き叫んだ。
と、足がすべって転んだ。草木の上で転ぶと、ずるずると島の中央に向かってずり落ちていった。島の中央に穴があいていて、へこんでいて、スロープになっているのだ。
穴にすべてが落ちていく。
「ギャー!!助けて!!」
少女は必死に草木につかまった。
少女のおうちもボロボロに壊れて、穴の中に落ちて行った。
「エレファント!もうだめだ!」
と思った時、少女が草木につかまってるちょっと上に、奇妙な動物がいるのに気付いた。
ヤギだ。白い毛が汚れて、もはや茶色に近くなっている。目はうつろで、あるのかないのか分からない。そんな二つの角をつけたヤギが、少女を見下ろしているのだ。
「ちょっと助けてよー。こらー。」
すると本当にヤギは自分の前足を少女の服にひっかけて、少女を助けてくれた。
ヤギが少女を助けると、穴と穴に落ちていくスロープは、ゆっくり平面にもどっていった。
少女は助けてくれたヤギをじっと見た。
ヤギも少女を見返したが、なんにも言わなかった。
少女がヤギの頭をなでようとすると、すっと体をかわした。
と、いきなりヤギは島の中央の穴に向かって駆け出し、身を投げるかのように、自分から穴に落ちて行ったのだ。
少女は目を丸めた。
雨がまたザーっと降ってきた。
少女は立ち尽くした。
島の向こう側にエレファントがいるのに気付いた。
もしかしたらエレファントは幻影かもしれない、そう少女は思った。
というのは、エレファントの姿が透けていて、向こうが見えそうだったから。
エレファントは向こう側で少女をじっと見ていた。
穴を挟んで、少女とエレファントは向かい合った。
エレファントはうなずくように、体を動かし、方向を変えて歩き始めた。
少女になにかが伝わった。
行かなくてはいけないのだ。
雨が強まるごとにまた島の中央がへっこんでスロープになった。
エレファントはもういなくなっていたが、少女の心の中にはいた。
少女はゆっくり穴に向かって、足を差し出した。
そして一気に穴に飲み込まれていた。
「わーーーー!!!」
その声は世界に産まれる赤ん坊のように聞こえた。
ずっと閉ざされていた世界に、間が開かれたのだ。